2013年1月28日月曜日

書評:数学セミナー 2013 年 2 月号



毎号買っているときりがないので普段あまり買わないのだが,何となく今回は買ってみた. 昨年 8 月に亡くなった小林昭七先生の特集になっている. 気になった記事についてつらつらと感想を書いていきたい.

巻頭の coffee break は「数学者が紙と鉛筆を捨てる日」という記事だ. 数学者は紙と鉛筆さえあればいいというのは本当か,と尋ねられた吉永さんが 思ったことを書いている.

研究活動のコアな部分はもちろんなくてもいいが,研究全体ではないと困る,というところから始まる. 論文書きやら他の研究者とのやりとりでメールを書くなど,そうした部分で PC がないと困る, というところからノートを取ったり,論文を読むのにタブレット PC を使い始めた,という近況を 報告されている.

私も最近タブレットを買って,論文や本を読むのに便利なこともある,という感じだが, ノートを取ったり動画作成補助に使うというところでまだまだ使い慣れない. (無料)アプリの充実も含め,何とか状況を改善してほしい部分もある.

大沢先生による「ポアンカレとの散策」だが,Poincare (e にはアクサンがつく)の不等式について触れられていた. Poincare の不等式は偏微分方程式ではとても大事で,必ず学ぶ. その辺りに関する数理物理でも大事で,下記 BEC の文献では Poincare の拡張について議論があるくらいだ. BEC への応用上,拡張が必要になっているらしい. 私は読みたいと思いつつ全く読めていなくて悲しいのだが.

ここから小林先生追悼関係の記事をの話をしよう. あとで少し書くが,小林先生の写真,大体全部笑顔なのが非常に印象的だった. また皆に愛されたいた感のある記事ばかりだった.

まずは落合先生による小林先生の数学的人生についてまとめた記事だ. 矢野先生は「矢野」と書かれているのに小林先生を「昭七先生」と書いているあたりが萌えポイントだ. 昭和 7 年生まれだから「昭七」という命名だ,という噂は本当だったらしい.
弟の久志の証言によると,この結婚で昭七先生のキャラクターがものすごく変わり, 例えば写真に写る姿は何時も微笑み笑っているようになったとのことであり
という記述を見た上で各写真を見ると本当に笑っている写真ばかり上がっているのに思わず笑った.

幾何が本当に分からないので何とも言えないが,引用されている次の言葉が印象的だった. 引用は適宜中略するので,全部読みたい方は購入してほしい.
微分幾何は,数学に対する一つの見地(view-point)であり,方法である. 微分幾何の存在意義は,新しい見方や,有力な方法を提供する点にあるとと思う. それに幾何学的に意味のわかる概念とか方法は,自然なものだがら, あとで予想以上の発展をみせることが多い.
話が微分幾何という一つの閉じた世界で終わっているようなときには, 良い定理であっても私は感心しても特に興奮するほどの魅力を感じることはできない.
微分幾何のような分野で,ささやかでも自分のアイデアを伸ばす方が楽しいのではないか. メインストリームに身を浮かべなくても,メインストリームに流れこむ小さな流れの内に, 微分幾何の面白い問題を見つけ出すというのも,また楽しいのではないか.
数学を勉強するときにはぜひ数学史も一緒に勉強してほしいと思います. 『この概念はどうしてうまれたのか』といった歴史を知ることでより深く理解できると思う
最後の記述,このへんは私も何とかしたいと思っていて,色々考えている.

小林先生と全く関係ないが,落合先生というと日体大が何か不祥事を起こしたときに学長をしていて 謝罪会見を開いていたので,誰かと「落合先生が全国区の有名人になった」と大変不謹慎な 会話をしていたことを思い出す.

慶應の前田先生の曲面の記事だが,有名な『曲線と曲面の微分幾何』に敬意を払って, 幾何学入門を意図して書かれたらしい. 大分前に買って読んだのだが,あまり真剣に読んだというわけでもなかったため, 結局あまり頭に入っていない. 色々あって複素曲面に興味があるので,その辺を勉強するついでに読み直したいところだ.



野口先生の小林双曲性に関する記事だが,小林双曲性,名前は知っていたがどんなものなのかを今回始めて知った. 何をどう思ってこんなのを定義したのか全く分からないが,これがやばい. N が小林双曲的な場合の正則写像全体がいかなる M に対しても同程度連続になるとか衝撃の一言だ. コメントがあるが,Ascoli-Arzela が使い易くなるので強烈の一言. Ascoli-Arzela,条件が結構厳しいので面白いが(私がやっている範囲では)使いづらい定理という印象があるのだが, こういう使いやすそうな状況はあるのか,というところも面白い.

M がコンパクトな複素多様体なら小林双曲性と「整曲線 f:CM は定写像しかない」という ブロディの定理も凄まじい. タイヒミュラー空間上のタイヒミュラー距離が小林距離に一致するというロイデンの結果も, 「タイヒミュラー距離はタイヒミュラー空間上だけで定義されていたもので,いわば孤立していた」という記述を見ると, 小林擬距離の強烈さが分かるというもの. ちなみにタイヒミュラー空間は定義すら知らないが,良く聞く名前なので大事,または面白い対象なのだろうということくらいは分かっている. 野口先生の研究は代数幾何との関係がある感じのものが多いという感じだが,実際にそのあたりの話がいくつか 書かれていて,それも面白く,勉強意欲をそそる.

P34 の超笑顔の写真がまた印象的だった.

満渊さんの小林-ヒッチン対応の記事,これまた名前だけ知っていてどんなものか全く知らない話だったので,単純に楽しい. これもまた超強烈な話だった. Frankel 予想の「曲率から多様体の性質が決まる」という話,本当に意味が分からないが,微分幾何の王道っぽい強烈な予想だと思う.

何となく買ってみただけだが,名前しか知らなかった話がいくつか強烈な結果とともに解説されたいたので思っていた以上に楽しい号だった.一通りは眺めたが全く身についていない小林先生の複素幾何の本もしっかり読み直したいと思わせる内容だった.

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